2017年3月6日

「田中さんのV7classic」(5上)

田中さんが手がけた、函崎さんのモトグッツィV7classicは、外見からはそんなにカスタムしているようには見えない。しかし、僕から見ると、ただならぬオーラを発しているように思えた。
僕は続いて、車体についても訊いてみることにした。
根本健氏のV7Sport専用に開発されたピストン。
出典は「fotomoto」さんより。
(作品中に出てくる名称はすべて架空のものであり、実在のショップ、メーカー等とは一切関係ありません。)
「車体は、排気管を除くと、殆どカスタムマシンには見えない。レバーも特にビレットパーツでもなさそうだし、ブレーキマスターのリザーバータンクも一体型です。」
「そうですね。元々V7はかの地としては国産メーカーがついていますから。このブレーキはなかなかいいので、タッチの向上を目指しただけで、あまり制動力が強くなり過ぎないようにしました。マスターは高品質のロード用に換えていますが、レバー比は換えていません。レバーは、実は手作業で削っています。函崎さんの手に合わせて削ったのですが、これは半分以上は函崎さん自身の作業です。開度の調整機構があると便利ですが、乗り手が決まっているのなら、その人にレバーを合わせてしまえばいいので、調整機構は必須ではないのです。だから省きました。」
「キャリパーも特に珍しい感じはなくて、ノーマルですか?」
「これはノーマルです。その方がダストシールとか、しっかりしているんです。もちろん、ゴムのパーツなどはこの際すべて新品にしてあります。」
「ディスクが変わっているようですが」
「よく気づきますね。サンスターのディスクですが、ノーマルサイズです。少し放熱性がよく、歪みにくいものに換えてあります。パッドも絶対性能というよりはリリース時のタッチ優先で選んでいます。」

写真はノーマルのV7classic。出典はMOTOGUZZIのHP。
「一時期よく、V7シリーズはフロントフォークが柔らかすぎてハードブレーキングができないって言われてましたが。」
「そんなことはないと思います。しかし、ノーマルのフォークは減衰がオリフィス(筒穴)式で、圧側と伸側の別々の制御が聞かないのです。大きなギャップを越えるときとか、ドシンとくる圧側にはしっかり減衰を聞かせて、伸び側はすっと伸ばしたいときもあります。フォーク径はいたずらに太くしたくないのです。剛性バランスが崩れますから。そこで国産の大正社のカートリッジタイプのものを元に、小川さんのところでセッティングをしてもらっています。詳しい話は飛ばしますね。かなりいい足になっていると思います。」

「フォーククランプがノーマルと違いますよね。」
「ノーマルは120km/hを越えたコーナリング中にギャップを拾うと、揺れが大きくでるんです。ボルトの締め付けトルクの調整だけでもかなり変えられるんですが、必要以上に強い力をかけたくなかったので、少しだけ幅広のトリプルツリーを作りました。トップクランプは逆にほんの少し弱くしています。…と言っても、数%ですが。これで、がちがちにせず、振れを収める方向でのセッティングが出たと思います。」
「それにはホイールも大きく関係しているんじゃないですか」
「そうです。ホイールは、兵庫の伊藤さんに頼んで特注で作ってもらいました。


写真はノーマルのV7stone。出典はMOTOGUZZIのHPより。

V7はシャフトですから、ハブの形状がチェーンとは違います。伊藤さんのマグネシウム合金ホイールは鍛造で、軽量と非常に丈夫なのが特徴ですが、さらに酷使される状況も想定して、耐久性を少しあげ、塗装は通常より工程の多い7層塗装にしてもらいました。見た目には普通の黒色の塗装に見えると思います。よく見ると、色の深みがあるのですが、気づく人はあまりいないでしょう」
「サイズはノーマルのままですよね。」
「はい。太くしても、せっかくのバランスが崩れるだけです。あまり硬すぎてもいけませんが、耐久性も欲しい。難しいバランスでしたが、伊藤さんは見事に仕上げてくれました。」
「酷使される状況というのは?」
「函崎さんはダートも走りますし、各地にツーリングに行きます。がたがたの舗装もあれば、急な段差に高速でぶつかることもあり得ます。」

そうなんですか…と、僕は函崎さんに訊きかけて、やめた。それはちょっと失礼な質問のような気がした。

「また、荷物を満載して、長旅に出ることも想定しています。長旅は、耐久性についてはもっとも過酷な状況と言えますからね。」
「なるほど。ところで、フロントホイールだけでも相当に軽量化されたと思うんですが、するとハンドルかクイックになりませんか」
「いえ、ジオメトリーはそのままを維持していて、比較的寝たキャスターと長いトレールですので、リヤの動きに追随していく動きはむしろ素直で違和感ないものになっています。それに、ホイールの軽量化という点ではリヤの方がだいぶ軽くなっているわけですから。」
「リヤショックは、これはオランダ製ですか。スプリングが紫でなくて黒色ですが。」
「コンスタントライジングレートのスプリングを持つオランダ製です。ツインショックですが高性能のものを選びました。荷重の大小さに適応幅が広いのがいいですね。」

「スイングアームは?」
「アルミ合金のスイングアームはノーマルですが左側のアームの下側がオープンになっているところを同じ材質のごく薄い板で蓋をした格好です。ここは左右の剛性が違っていて、もちろんドライブシャフトのある右側が負荷も大きく、剛性も高いのですが。左が少しよじれるようになっています。この捩れを完全に消してしまうと、フレームに荷重が来て操安が悪化します。しかし、剛性を高めすぎないところで、ほんの少し左右差をならしたい感じだったので、ふさぎました。薄くて殆ど補強にならない感じですが塞ぐからには水やごみが入らないようにしっかり溶接しています。この溶接痕だけでも動きが硬くなりますので、そうならないように、慎重に作業しています。」

見えないところに細心の注意を払うのは、田中さんのいつものやり方だ。
フレームや外装にも、まだまだポイントはありそうだった。
(つづく)

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