2017年3月5日

「田中さんのV7classic」(4)

「大変お待たせしてしまいましたが、完成しました。」
田中さんが言い、
「お手数をおかけしました。」
函崎さんが答えた。
「今回はインジェクションのセッティングと最終的な各部のフィッティングがメインだったんですが、佐藤さんがいますので、全体的な話をしますね。」
「はい、お願いします。」僕が答える。
函崎さんはマシンを見つめている。
「このモーターサイクルは、2010年型のMOTOGUZZI V7classicですが、外観は2008年モデルに準じています。それは、函崎さんが、この白がお好きだったので。」

写真はV7stone。出典はMOTOGUZZIのHPより。引用にあたって白黒に変換。
「函崎さんの用途に合わせて、チョイ乗りから長旅、ジョギングくらいの速さでゆっくり流すことと、峠の快走まで、できるだけ幅広く対応できるようにしました。」
「用途に先鋭化しないチューンですね。」
「はい。」
「各部、どんなふうにしたのですか」
「どこから話しましょうか」
「今回のエンジンのことからお願いします。私もうかがいたいし。」
函崎さんが言う。
「はい。じゃあ、エンジン関係から。」

「今回、エンジンはオーバーホールしました。8万km走ったエンジンとしては、とても状態がよかったです。
 V7classicのよさは、流した時の平和さ。鼓動が心地よく、回していくとその振動が収束していって、かつ出力がリニアに上がっていくところです。この良さは残したい。」
「私も、流しているときの感じが大好きです。」
「一方で、函崎さんは攻めるときはかなり回し込む。ノーマルは安全性を第一に、絶対無理しないところでリミッターがかかって、まだ回る部分で加速が途切れている。リミッターと燃調を適正化すれば、もっと回るエンジンなんです。」
「でも、リスクは上がるでしょう?」僕が口をはさんでしまった。
「そうです。レーサーではないのですから、リスクを取るわけにはいきません。バランスが大事なんです。でも、もっと速く走れるモーターサイクルなのだから本来の速さは発揮させたい」
「本来の速さ」
「もともとグッチは速さを求めたメーカーですからね。でも闇雲なパワーアップはバランスが崩れます」
「はい。」
「基本的に、ノーマルパーツをできるだけ使い、劣化したものは新品に換えます。ベアリングに関しては、同サイズでより高品質な日本製を中心に交換します。フリクションの低減を中心に考え、本来の速さを引き出しつつも、無理な出力アップは行わない方針です。」
「すると、ベアリング以外はノーマルパーツですか。」
「ほぼそうですが、ピストンは変更しています。フリクション低減を主目的に、大下製作所にお願いしました。ピストンピン、コネクティングロッド、メタルなども併せて交換しました。その関係で、クランクウェブのバランスを取り直しています。ここの重量合わせとクランクのセンター出しをしました。」
「するとやや回転慣性が小さくなるのでは。」
「少しではありますが、そうです。そこで、リングギアを別物にして、外周部近くの厚みをやや増し、回転慣性を補正しています。円形なので振動を生まず、径が大きいので重量をあまり増さずに回転慣性を補正できました。」

「燃料噴射はどうしたのですか」
「メーカーのセッティングを個人で一から出していくのは、時間がかかりすぎるので、サブコンを割り込ませるシステムです。それでも高性能のものにしたので、細かく仕上げられました。どのギヤ、回転数でもドン付きなく、スムーズに回ります。回転リミットは8,200rpmです。」
「回しますね。」
「マージンはこれでも大きくとっています。カムプロファイルはノーマルですので、エンジン特性は変わっていないのですが、回る分、引っ張っても走れます。インジェクションで回した時のパワーの落ち込みもなく、力強く加速するようにしました。」

「V7は回しても無振動にはならないですよね。」
「実は他のグッツィもなりません。低回転との比較でそう感じるんです。しかし、できるだけ、振動を消すように、バランス合わせはしっかりやりました。」
「それでも、グッツィはOHVですから、動弁系の往復質量が大きいですよね。」
「これもバランスを取れば振動はかなり減ります。バルブ、ロッカーアームロッドはチタンにして往復質量を軽減しました。ここもセンター出しと重量合わせを丁寧にして、ブレをできる限り取り除きました。ブレがない方が振動も少なく、ガイドの摩耗も抑えられ、耐久性も増すので。」

「ギヤは?」
「5速のスタンダードのままで。摩耗等も問題なかったのでそのまま使用しています。でも、歯の状態をチェックして全部のギアを磨いて、動的バランスを取り直しています。シフトフォークは新品を磨いて、耐久性と作動性を上げました。ここでも振動が出ないように。ベアリングは全部新品です。」

「吸排気系、インジェクション以外はどうなんですか?」
「エアクリーナーボックスはノーマルとほぼ同形状ですが、少しだけいじっています。空気の通りをよくしたのです。形状を変えたので、カーボンでボックスを作りました。」
「排気管はスチールの色合いが味わいあっていいのですが、軽量化を重視してチタニウム製にしました。この管は、頼み込んで加藤さんのところで作ってもらいました。
写真はノーマルのV7classic。出典はMOTOGUZZIのHPより。

マフラーは2本出しで左右対称の外観を守り、このようにメガホンタイプで形状もあまり変えていません。
しかし、内容はストレート構造で、消音のためのグラスウールがパイプの中に入っています。これはエンドピースを別パーツにして、交換できるようにしてもらっています。
スイングアーム前のバイパスパイプも作っています。車検対応しているマフラーですが、パワーは少し上がります。」
「どれくらい出ているんですか」
「後輪で55psくらいですか」
「それはかなりのパワーアップですね。」
「いや、もともと本国仕様では48psですから」
「でもそれはエンジンで、でしょう、後輪で55psはかなりのパワーアップですね」
「いや、そうでもないです。フリクションロスをできるだけ減らしたからですね。パワーを出す方向に振ると、低速が抜けてしまうこともあるので全域でリニアになるように総合的に調整しています。強すぎても乗りにくいですし、低速の開け始めは少し優しい感じで開けるにしたがって比例的に力が出るように。ここは納得いくまで調整して、ここで時間がかかってしまいました。函崎さんには、お待たせすることになってしまって、申し訳ありませんでした。」
「意のままに操るのに一番大切なのはリニアリティだと思いますが」
「その通りです。車体の方でそれを演出することも少しできなくはないのですが、まず、エンジンそのものがしっかりしていないといけないので、ここはきっちりやりました。」
「もっと最高出力を上げることもできたのですね」
「できましたが、函崎さんはそれを望まれないので。それよりも、高回転域での力強さと、低回転域での心地よさの両立を重視しました。せっかくの空冷ツインですから」

「さあ、珈琲をどうぞ。佐藤さん、かなり興奮してますね」
田中さんの奥さんに言われて、はっと我に返る。
気が付くと、僕は相当に興奮して、オーナーの函崎さんを置いてけぼりみたいになっていた。
「あ、失礼しました、どうもすみません。」
さすがに恥ずかしく、謝ると、奥さんが函崎さんに言った。
「ね、話通りの人でしょう?」
函崎さんは笑った。
「本当にオートバイがお好きなんですね」
「いや、すみません。オーナーの方を差し置いて、でしゃばりすぎました。」
「いえ、いいんです」
田中さんと僕が話し込んでいる間、オーナーの函崎さんは、マシンのグリップを握ったり、タンクをなでたり、しゃがみこんで下回りをのぞき込んだりしていた。
それはそうだ。自分のマシン、速く触りたいし、速く走りたいだろう。
でも僕は、もう少し、マシンについて田中さんから話を聞きたかった。

「車体の方はどうなっているんですか?」
見た目は殆どノーマルに見えるが、そうでないことは、纏う雰囲気が伝えていた。
(つづく)

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