2017年2月27日

「田中さんのV7classic改」(1)

「これは、……特別なマシンなんですか?」
田中さんの店の奥にある、モトグッツィV7クラシック。
その白いカスタムマシンについて、僕は田中さんに尋ねた。
「ええ、……わかりますか。」
田中さんは、静かに答えた。こんなことを訊いた僕をたしなめたりはしなかった。
(この話は、フィクションです。)

「なんだか、凛としていて、不思議な感じです」
「どうしてそう思うんです」
(ノーマルのV7classic かつてのMOTOGUZZIのHPより)
それは、V7カスタムとしては、ごく普通の感じだった。
ホイールはスポークから細めのキャストに。
エキゾーストも変わっているようだし、
リヤサスは、リザーブ付きのものに換装されているが、そう目立ったものではない。
ヘッドライドはカットガラスになって、クラシック感が増しているが、
むしろこちらが純正ではないのかというくらい普通だし、
黒の丸いバックミラーも、何の違和感もない。
ハンドルバーもちょっと幅が狭くて絞りが入っているようだが、
そんなに大きくポジションは変えていないし、
スチールにクロームメッキの素材はそのままだ。
リザーバータンク一体式のブレーキマスターも、純正のようにさえ見える。
そうだ、このマシンは、ノーマルのV7classicを知っているから改造していると思うが、
何も知らないで見ると、このままノーマルのバイクのように見えるのだ。


シリンダーヘッドもclassicの形のままだし、プラグキャップもコードも黒で代わり映えしない。
タンク、サイドカバー、前後フェンダーもノーマルに見える。
タンクキャップは新型と同じ型に換えられている。

「そうとうにいじってるのに、全然いじっていないように見える…。むしろ、ノーマルからさらに元の姿に戻したかのように見えます。」
「佐藤さんにそう言ってもらえると、うれしいですね。」

田中さんは、しみじみとそのクラシックを眺めている。
跳ね上がったリヤもない。
キラキラに光るアルマイトもない。
黄色や白や、紫のスプリングも、ゴールドのFフォークもない。
ステップ周りは変わっている。ノーマルよりもかなり後方だ。
ブレーキシリンダーの位置も違うし、
左側はシフトペダルもリンケージもかなり変わっている。
でも、細めのフットペグは可倒式で踏面には厚手のラバーが載っており、
ノーマルのステップのように見える。

リヤのスイングアーム、ドライブシャフトは完全にノーマルに見えるし、
タイヤは純正と同じピレリのスポーツデーモンだ。
むしろ、この現代的な溝のタイヤが、ここだけカスタムしたかのように見えるくらいだ。

どこもかしこも、なんだかしっとりしていた。

「しっとりしてますね。」
「しっとりしてますか。」
「してます。……でも、凛として、それだけじゃない。そしてなんだか孤独な感じもします。」
「まるで人を形容するみたいな言い方ですね。」
「ああ…、そうですね。言われてみればそうです。」


「田中さん、このマシン、……実はとんでもないでしょう。」
僕が言うと、田中さんは、少しいやそうな顔をした。

「佐藤さん、とんでもないなんて言葉は、モーターサイクルにはあまり似合わないと思いますよ……」

田中さんは少し微笑んで言った。

僕も少し笑った。

「すみません。失礼な言い方でした。……でも、じゃあ。田中さん、このマシンは、少なくとも田中さん自身が、完全に分解して、そして、一から組み上げたんじゃないですか。」

「そう思いますか?」
「いや、むしろ、そうです。わかります。」

「わかります?」

「はい。」

「そうですか…」

田中さんは、あたっているとも、はずれているとも言わなかった。
(つづく)

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