2016年9月4日

Dance with R65(6)


2016/8/28  13:36
「走り足りない」
朝里から道道1号線を南下。朝里峠を越えて、定山渓へ。札幌近郊のライダーにとっては定番の道の一つでもある。
ST4さんの先行で走っていく。
工事中の高速道路の下をくぐり…。




おおきなループ橋を越えて、峠へと向かっていく。

朝里峠は、昔、「ローリング族」がたくさん集まる場所だった。
4連ヘヤピンが下と上にあり、それを急坂中速のコーナーとうねる路面のストレートが結んでいる。
レプリカマシンにレーシングウェア、その上に袖をカットしたチーム名を書いたトレーナー。
一般車が怖くて走れないほどの「盛況」ぶりだった。

今は新しい道ができ、上のヘヤピン群は閉鎖され、大きなRのトンネルと橋で結ぶ。




そして路面には排水性を高める縦溝が至ることろに彫られ、二輪車には走りにくい道になっている。

それでも、毛無峠とはまた違ったこの峠のリズムは、やっぱり走ると気持ちいい。



ST4さんは前後に車のいないこの峠を快調に飛ばしていく。




峠をトンネルで越え、いくつかのスノーシェルターと覆道、森の中のワインディングを走って、定山渓川の緩やかな峠坂を下っていく。




道道1号線のトンネルには、晴れていても中が濡れているものがいくつかあり、しかも、かなり滑るので、走行には注意が必要だ。

それにしても、交通量が少ない。



道は豊平川水系の支流小樽内側にかかるダム「定山渓ダム」がつくった人造湖、さっぽろ湖のほとりを行く。
定山渓ダムの完成は1989年。1987,1988年に札幌に住んでいた僕は、この工事を見ながら、今では湖底に水没した森の中を行く道をバイクで走っていた。
とても美しい森と渓流だったのだが、巨大化する札幌市の水資源の確保のためには先に完成してた豊平川の豊平峡ダムだけでは不足するとして作られた。

ST4さんは、さっぽろ湖畔の駐車場にR65を入れた。

2016/8/28 14:16
湖の水と岸辺が美しい。

ダム湖はいつも、どこか悲しい表情をしている。

火山の噴火にともなうせき止め湖でもそれは同じはずなのに、ダム湖に特に悲しさを感じてしまうのは、僕が頭で考えているからだろうか。

湖面の写真を撮りながら、ふと、そんなことを考える。

振り返ると、R65とV7が並んでいる。

今日はほんとによく走った。



ST4さんも、僕も、かなり満足だ。

「いやあ、走りましたね。」
「うん、満足ですね。」
「どうしてこう、楽しいんでしょうね。」
「充実してましたね。」

停まっている2台を見ると、タイヤに熱が入っていつもより黒くなっている。

コーナリングに特化したタイプの車両ではないのだが、一日、とても楽しめた。

それにしても、R65はシティケースもぴたっと決まって、全体として、V7よりも隙がない感じだ。
テールランプやウィンカーレンズが大きくてよく見えるのも、安全上も好ましいと思うし、デザインとしてもすぐれていると思う。

V7のテールライト回りのデザインは、「けれんみ」というか、媚びのようなものが感じられて、全体的に好きなV7のデザインの中では好きでないところではある。


今回は300kmを越え、330kmほどのツーリングとなった。
朝5時から昼3時まで、10時間。
思ったよりも長時間、長距離の走りになってしまったが、とても充実していて、最後まで楽しかったのは、渋滞路を延々と走らなくてよい道路環境のおかげもかなり大きいと思う。

冬の間、5ケ月は乗れないわけだが、走れる季節に関していえば、札幌はモーターサイクルに乗るのに非常に適した街だと言えるかもしれない。





解散前の最後の休憩を、定山渓を過ぎ、札幌の街中に入る直前の、小さな道の脇の駐車場で行った。
自販機の缶珈琲を飲みながら、一日を振り返る。

ここでも、一日の楽しさと、まだ走りの話題が尽きない。


トルクリアクションの話、
向き変え時のヨー運動の軸の話。
旋回の組み立ての話。

今日一日走ってくれた愛車を眺めながら、
走りのリズムでほてっている体を、
冷たい缶コーヒーをちちびりちびりと飲りながらクールダウンしつつ話していく。

理屈抜きに幸せなひと時だ。


タイヤを見る。


R65



V7

「あら、思ったよりもこれは…・」
「ああ~、こりゃ、やっちゃってますねえ」

特に極端に攻めた走りをしたわけでもなく、いつもよりも寝かした訳でもないのだが、
けっこう使ってしまっている。

おとなしい走りをしたつもりだったが、自分たちで思った以上に、やるときはやってしまったか。




R65、45ps。
V7、50ps。
最高速は200km/hに届かない。

しかし、日常域の旋回や加速なら、十分の力を持つエンジン。
横ににょきっと出るシリンダーは、縦置きエンジンの特徴で、バイクではごく少数派。
変な外見なのだが、こうしてみると、逞しく、いい感じ。
BMWはほんとに昔の飛行機のエンジンみたいだ。





漆を塗ったような黒のことを漆黒というが、そういう深みのある色をしている、R65。
1970~1980年代前半のBMWといえば、ツーリングに特化した走行特性で、安定性重視、重量級のイメージが強かったが、今回、ST4さんの駆るR65と走ってみて、その軽快さを再認識することになった。

倒し込んでいくとエンジンガードから設置するそうで、そうなると、路面のギャップなどでエンジンガードが強く路面と当たった拍子にタイヤの面圧が一気に抜けたりすると、危険なこともあるから、あまりフルバンクでの高速旋回はできない。

しかし、その一歩手前までなら、シャフトの癖は残しつつも、R65は軽快なステップを踏み、シュインシュインと向き変えしながら、ST4さんとワインディング・ダンスを踊るのだった。




やじろべえ効果のある水平対向エンジンレイアウトは、バンクが軽いだけでなく、バンクした状態での安定性と軽快性を両立している。

R1200GSなどに、公道でオンロードバイクが追い詰められたりするのも、日本製のインラインフォーが荷重とか、いろんなことを考えている間に、BMWはただドバーっと走ってきて、曲がれる速度まで落としたら「ほい」とバンクすれば、リラックスしたまま。限界の一歩半手前までは、平気で連れて行ってくれるのだ。その域でのえげつない「無敵さ」にはあきれるほどである。

ST4さんのR65は、そうしたR1200GS系とは趣が異なる。
軽快さと安定性を兼ね備える基本は持ちながらも、それを生かしてどう走るか、どう組み立てていくかはライダーにゆだね、そしてライダーの意図に答える側面があるように見えた。

実に楽しそうに、R65とダンスする、ST4さんであった。



モーターサイクル・ライディングは、とても楽しい。
そして奥が深く、魅力に満ちている。

一日、ST4さんと走り回ってみて、その楽しさをもう一度、かみしめることができた。
そして、サーキットではなく、公道を走ることの楽しさもまた、今回、もう一度認識できたように思う。

空の下、風に吹かれて、見知らぬ土地を走る。
いや、よく知った土地でもいい。
風が変わり、匂いが変わり、道端の人や、農家の農機や、畑の作物などを眺めながら、
緑のトンネルを抜けるときの木漏れ日のシャワーを浴びながら、
そうして走り続けていく幸せは、やはり何ものにも代えがたい。

そうした、自分と、風景との濃密な対話は、
おそらくソロ・ツーリングでなければ味わえない領域がある。
それは自分のバイクとの対話にしてもそうだ。

でも、同じ風景の中を、複数で走っていくことの醍醐味もまた、確かにある。
ソロツーリングと、複数のツーリングとは、まったく違った経験(エクスペリエンス)だ。

孤独な人間同士が、それぞれのモーターサイクルを駆り、一人で運転しつつ、一緒に走る時、
相手の存在を感じるべくセンサーを働かせようとするならば、
そこに、ソロとはまったく違うツーリングの姿が立ち上がる。
そのあり方は、人と人の組み合わせ、マシンの組み合わせ、時期、場所、天候、などで
一回一回異なる。

再現ではない。

そのつど、新たに創るのだ。
そのメンバーのモーターサイクル・ライディング、
モーターサイクル、ツーリングの世界を。



ST4さん、今回はありがとうございました。
本当に楽しかった。

(Dance with R65 完)

8 件のコメント:

  1. 読んでいるこちらまで心躍る2台の道行・・・・・・、
    大変楽しく拝読させていただきました。
    それにしてもこのタイミングでこの記事とは、参りました。
    その訳はいずれ拙ログでお話しします。

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    1. 迷走さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
      おおう、何でしょう?
      機種のことでしょうか、走りのことでしょうか、
      複数台での走りに関してでしょうか…、
      う~ん、楽しみ……。
      記事、お待ちしております!

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  2. 幾度もこの連載を読み直していました。

    走る楽しさをとても丁寧に描かれていて、RIDERとして とても気持ちが入りました^^


    同じ気持ちで風景に思うところがありました。
    ダム湖を眺めるていると、なぜか切なく感じるのが私も不思議でした。
    同じ水のある風景なのに…自然のものと何が違うのか…
    機械的なものをふと感じたりします。
    風景って不思議です。

    さてさて毎回楽しみに読んでいたST4さんとのダンス…
    阿吽の呼吸で走れるのは楽しい時間でしたね!
    そんな走りを共有できるツーリングが素敵だな~と思いました^^

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    1. selenさん、こんにちは。
      ありがとうございます。

      たとえば、同じ自然の湖でも、支笏湖はいつも少し悲しげで、洞爺湖は明るい感じが僕にはします。
      ただ、ダム湖の場合、なんか、切ないというか、違和感みたいなものを感じてしまうのですが、
      それが僕の素直な感性のものなのか、これはダム湖なんだという、知識から頭で作り上げた「頭で作った感性」に左右されているものなのか、自分でも判然としないところがあります。
      もしかしたらダム湖の場合、湖畔道路の作り方なども、新しく、人造的な匂いがして、そこから「なじんでいない感」を感じているのかもしれません。
      素直に景色を見るということも、なかなか難しいものだ…と思います。
      素直なつもりで、擦り込まれた何かに支配されているかもしれない。
      できるだけありのままで、自由になっていければいいな…と思います。

      いつもは一人で走っているので、たまに誰かと一緒に走ると、刺激を受けますね。
      ST4さんとの走りは、想像以上に面白くて、楽しかったです。
      複数台で走ることの意味や、そのノウハウなどについても、考えたツーリングでした。

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  3. takaです。
    お二人の走りを、楽しませて頂きました。
    自分の前を、お二人が走っている様で。
    R65、私も好きな1台です。
    V7は、アプローチは異なるでしょうが、R65と似てますね。
    走り方も、バイクへの接し方も。
    ちょっと、元気なところも(^_^)

    お二人を正統派ライダーとして、お手本とさせていただきますね。

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    1. takaさん、こんにちは。
      記事、楽しんでいただけたら幸いです。
      僕自身、かなり楽しかったです。
      おとなしく走ったつもりでしたが、
      車通りのないところでは意外と元気だったかも…(^^;)

      何をもって正統派とするかは難しい所ですが、
      ST4さんのウェアリングの完璧さ、走行時等のマナーの良さは、
      素晴らしいと思いました。
      道の駅で缶コーヒーを飲んだ時、ごみ箱がないとわかったとたんに
      二人同時に缶を潰した(バッグに入れて持ち帰るため)時は、
      あんまり同時だったので、そのとき話題にしませんでしたが、
      僕はひそかに「おお!」と、思っていました。(^^)

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  4. 樹生様
    こんにちは、ST4です。
    ツーリング終わった後もブログ拝読させて頂き、
    これもまた、とても楽しくませて頂きました。
    有難うございます。
    何だかお褒め頂き返しずらく…(笑)
    樹生様とは走りの同調もあって楽しい事もあったのですが、
    モラルの共有が自然に出来た事も楽しさへの寄与は大きいと思いました。
    途中の山岳コースを深めの集中力でお互いに走り切った辺りで、
    言葉は不要だなぁと思いました。

    マナーそれ程良くないです。
    一人走りでは飛ばしますし、
    人気のない峠でパワーバンド内でうまく走れている時のアクセルの開閉による大音量の排気音、
    もう…最高!と恍惚状態です(笑)

    ただ以前に高橋剛さんのコラムでゴルフはゴルフ場で、
    バイクはクローズドコースで、というのも一つの解であるとの趣旨の記事があり、
    自分はオープンコースでどこまでも見知らぬ所へも行きたいと思いました。
    マナーが悪く、事故が余りに多いと極端ではありますが、
    十分にあり得る制約だなぁと思い、自分が公道をずっと走りたい為に
    バイクに乗っている時、周りに不快感を与えないよう努めている次第です。
    なので、マナーが悪かったり、集団で威圧感があったりすると
    やめてくれ…と自分の為に思ってしまいます。
    人に褒められるような事では無いのです(汗)

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    1. ST4さん、こんにちは。

      マナーの悪いバイク乗りが多くなると、それだけ社会のバイクへのまなざしが厳しくなり、次第に肩身の狭い思いをしたり、二輪通行止めになったりする…。
      そんな危惧は、杞憂ではなく繰り返し現実に起きていることでもありますね。

      ひそかな楽しみをいつまでも味わいたい…。そんな思いから、バイクのマナーのことを考える私たちは、やはりエゴイストなのかもしれませんね。

      でも、配慮と、愉しみと、二律背反するようにも見えるものを、いかにバランスを取り、維持していくか…という課題は、それは大人の領域の問題だと思います。

      社会と長く共存できる楽しさを。
      バイクライディングやマナーもサスティナブルでなくてはならないのかもしれません。

      このバランスをどこで取るかのポイントもライダー一人ひとり違うと思います。
      余りに価値観が違いすぎると走っても楽しくないですし、しかし、あまりに同一性を求めすぎても、息苦しくて楽しくないようです。
      節度と寛容さ、そして、そのつど、現場で調整していくことと、そのことも含めて楽しむ感性が、「ともに走る」ことを楽しんでいく上で重要なのだなあ…と、これは今回のツーリングを記事に書いていく過程で、考えました。

      いずれにしても、とても楽しかったです。
      ST4さん、ありがとうございました。

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