2015年2月7日

「classic」(4)(上)

*この物語はフィクションです。

写真はスズキのHP,GSRの壁紙より。(カラ―を白黒に変換)

 この峠の登りは最初2車線の路面のいい中速コ―ナーの続く、快走ワインディング、途中から1~1,5車線の中央線のない、狭い見通しの悪い区間が10kmくらい続き、頂上の手前でまた広くなる。
 後ろから僕を「追撃」する何台かのバイクの存在に気付いて、僕は加速して引き離してしまおうとした。
 通い慣れた道。もう先も分かっているし、何度も走るうちにだいたいどれくらいの速度なら安全かも分かってきていた。
 ブレーキもよく利くし、アクセルのツキもいい。パワーも不足ない。…どころか、この峠では持て余すほどだ。

最初の回り込んだきれいなカーブを立ち上がりで3速ピークになるように旋回する。バンク角は深くて、素直によく寝る。
 腰をずらしてお尻をシートから半分追い出した状態の方がホールドもしやすく、安定もする。バンクして旋回状態に入る時に、一瞬膝を接地させて、いつものバンク角であることと、その時の状態を確認する。
 OK。そのまま、滑らかに開けながら旋回すると、GSRはエネルギーを溜めこむようにタイヤを強く路面にこすりつけながら進路を内側へ内側へと変えながら加速していく。
立ち上がりでアクセルをストッパーまで当てると、気をつけないと前輪が浮いてしまいそうになる。

 浅いカーブは瞬間的なリーンで。深いカーブはその曲率と深さに合わせ、傾き、スピード、旋回姿勢をひとつひとつ変えながら。
 エクシージと、GSR、4輪と2輪とでは、山道を速く走るといっても、全然感覚が違う。
 エクシージの、ブレーキングからステアリングを切り込むときの、外側前輪のハガキほどの接地面積にすべての荷重を集めて、それをステアリングでねじりながらノーズをインへと向ける、あの感覚。そして、前後輪のバランスをフラットにしてグリップぎりぎりで旋回していく強烈な横Gの感覚。
 GSRのひらりひらりと身をひるがえしながら、サインカーブを描く前後輪の接地圧を体と動きのバランスで調整しながらワインディングをダンスしていく感覚。
 どちらが上とか、どちらがすごいとかなく、二つはあまりに違い、しかし、同じ通低音を持っている。

 カーブを3つ通過したところで、後続は3台に減っていた。
 やや長い直線。後続車が近づく。…が、次はヘヤピンカーブの2連奏だ。
 それを通過した後の直線。
 300mくらいのその直線の終わりで、ミラーの中の影は2台。そこからは中速の、曲率の変わるS字が3連続で続く。
 この切り返しはリズムが面白く、僕はなぜか、この部分を通過するときに決まって「TAKE5」が頭の中で鳴りだすのだ。

 そのカーブを通過して、道が狭くなるまであと1kmのところまで来たとき、ミラーの中の車影は1台になっていた。
 (つづく)

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