2013年6月5日

水無月朔日。馴らしに走って(2)

 タイヤにクギがささっているのを発見。慌てつつも落ち着けと自分に言い聞かせ、空気が抜けてこないのをいいことに、ゆっくり少しずつ札幌方面へ帰り、とうとう札幌市のバイクショップ:ズームさんのところにたどり着いた。
 朝9:30。「すみません。パンクしました。」と声をかけると、ズームさんはてきぱきとパンクを修理してくれた。

 この写真は後日撮ったものだが、クギを引き抜き、その穴に接着剤を塗ったゴムのプラグを差し込み、余分を切り取るという、ごくごく一般的なチューブレスタイヤのパンク修理だ。
 そう、このV7スペシャルには納車前にズームさんによってホイールに手が加えられていた。スポークホイールはスポークの端がホイールを貫通して内側に出ているため、通常はそこからの空気漏れを避けるため、タイヤの中にチューブを入れた構造にしなければならない。しかし、その場合のパンク修理は後輪を外し、タイヤをホイールから外し、中のチューブの穴をふさがなくてはならなくなる。このV7、リヤホイールの脱着は、独特の形状のリヤハブのダンパー構造により、独特のコツを必要とする。慣れていない人がこの脱着を行うと、いい具合に組めないことがある。そこで、ズームさんはホイールの内側に専用のテープを貼ってシーリング加工を施し、チューブレス化していたのだ。その結果、クギが刺さってもタイヤの中でチューブから空気が漏れてみるみるぺっちゃんこ…とならず、殆ど空気が抜けないまま30km以上を走って支笏湖からズームさんまでたどり着くことができたのだ。
 もしもチューブレス化加工がなされていなかったら、クギを踏んだ時点で空気が抜け、走行は不可能になっていただろう。そうなると、支笏湖までV7をピックアップしに来てもらわなければならないところだった。また、無理に走るとホイールやハブまで変形したりすることも考えられた。
 まさにズームさまさまだったのだ。
 しかし、ここで手離しにこのエピソードから結論にたどり着くことはできない。まず、今回はクギがほとんど錆びてもいず、曲がってもいないものだったという「運」の力も大きかった。もし曲がったクギが刺さっていたらクギが刺さったままほとんど空気が抜けないなどということは起きなかっただろう。
 もう一つは、このテープによるチューブレス化はリスクゼロではないということだ。何か強い力が加わってホイールがたわみ、ホイール(リム)側のスポークがテープを持ち上げて、あるいは突き破って頭を出したら、空気は急速に抜けていく。一般的にこの加工は、お奨めできる方法ではない。また施工が悪いと、最初から漏れることもあるし、リムの気密性の耐久性能が著しく低くなることもままある。正確に作業することと、ただマニュアルをなぞって作業することとでは、それこそ天と地くらいに差があるのだ。本当に他人にはお奨めしない。ズームさんはこの作業の有効性と危険性を熟知しており、しかもモトグッチでの加工歴も持っていた。元々のホイール加工の精度なども関係してくるものであるから、ただやれば性能も耐久性も上がる…と考えるのは大間違いだといってよいだろう。まして「金を払ったんだから金を受け取ったお前はちゃんとしろよ」としか思えないのなら、絶対にすべきではない。世界はそんなに単純ではないのだ。

 パンクを直してもらって、このまま家に帰るか、それとも気を取り直して馴らしツーリングを仕切り直すか、選択にちょっと迷った。ずっと仕事が混んでいたことのしわ寄せで、ずっと寝不足。先週は頭痛も結構来ていたのだ。
 しかし、明日は明日で仕事もある。今日中に走っておこう…と思い、当初向かっていた南方角ではなく、北方向へ走りに行くことにした。
 ズームさんに感謝の心を捧げ、挨拶をして、V7と僕は北へ向かった。(つづく)

2 件のコメント:

  1. こんばんは。
    この加工、僕も同じ加工をsportのホイールに施しています。

    第一の目的はチューブの分だけでも軽量化したかったこと。
    第二が、まさしく今回の樹生さんが遭遇したようなケースで、自走できる可能性を少しでも高めること
    でした。
    他にもいくつか目的はあるのですが、ショップの担当の方に相談した際、やはり樹生さんが本記事に書かれたリスクの説明を受け、
    充分加工歴があって、お客さんの満足の声にもかかわらず
    「『お勧めできる加工です』とは言えません」と言われました。

    信頼して施工をお任せできるショップでもあり、加工を行うことにしたのですが、施工後の写真まで頂きました。
    http://blog.goo-net.com/piccolomachina/archive/394

    3年が経ちましたが、タイヤの選択もノーマルに縛られることなく気に入ったものを履いて、楽しく走っています。
    幸い、パンクもなしです(o^-')b

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  2. Hiroshi Mutoさん、こんばんは。
    ここでも同じ加工をしていたとは。驚きです。
    確かにリスクゼロではなく、万一の時は自己責任での覚悟は必要と思います。
    それは、チューブタイヤでパンクした時と、そう変わらない場合ではないかと思いますが、
    素人があまり憶測でものを言うべきでないかもしれませんね。
    しかし、今回、本当に助かりましたし、ああ、やっててよかった、と思いました。
    グッチのリヤホイールは脱着が面倒で、きちんとはめることはバイク屋ならだれでもできるというものではないらしく、…とすると、パンク修理にタイヤ脱着の要らないこの仕様は、やはりよかったなあ…と自分のケースでは考えています。

    スポーツデーモン、どんなタイヤでライフはどれくらいなのか、今から楽しみです。

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