2013年12月1日

V7ライディング(街乗り)


今年、並列水冷4気筒1052ccのカワサキGPZ1100から、
縦置き空冷2気筒744ccのMOTO・GUZZI V7Specialに乗り換えた。

何度かその走りの印象について書いてきたが、オーナーになって感じた、走りの特性と走らせ方のコツのようなものについて、気づきを書いておきたい。

ただし、これはあくまでも僕の経験、僕の感覚である。他のV7の乗っている方のブログ等を読んでみると、僕とは感じ方が違う人がいる…というよりも、どうも僕の感じ方が少数派というか、僕だけ違うように感じている節もあるようだ。だから、どうかお読みの方は、あくまで一個人の感覚としてのみ、読んでいただきたい。

(長い記事です)







0 取り回し。

装備で190kgのV7は取り回しも軽い。ハンドルの切れ角も十分あるので、撮り回しは容易で特に困ることはない。シャフトドライブだからといって押し引きが重く感じるということもない。

左右に張り出したシリンダーも、押し引きの時には特に気にならない。総じて扱いやすく、400ccの感覚で取回せる。
シート高が800mmと低くない数値だが、リヤカウルが跳ね上がっていないし、タンクも上部が盛り上がっておらず、小さく見えるし、特に邪魔なものもない。跨るのも降りるのも、非常にやりやすい。
身長が高くなくても、扱いやすいだろう。

オプションのセンタースタンドはつけていないので、使い勝手はわからない。

サイドスタンドは後ろ目にある。スタンド本体から伸びる足を掛けるためのアームを使うのだが、この使いやすさも標準的。特に優れた点はないが、問題点もない。傾きは立ちすぎず、傾きすぎず。


2 トルクリアクション。

縦置きシャフトドライブのV7。
停止状態でアイドリングしているときは、エンジンを吹かすとサイドスタンドで立ち、左にかしいでいる車体が起き上がるように右にぶるっと震える。
トルクリアクションだ。
しかし、これは走り出すと全く感じない。

もう一つ、シャフトドライブの癖として、アクセルオンでリヤが持ちあがり、オフで沈む、というのがある。
これを嫌って、例えばBMWはパラレバー化しているし、モトグッチも1000cc以上の新しいモデルではユニバーサルジョイントを2か所設け、シャフトの通ったスイングアームの上方か下方にサブアームを取り付けて四辺形を形作ることで過大な動きを消している。
V7にはそれもない。
だからオンで持ち上がり、オフで沈む傾向は残されている。しかしこれも過大ではない。街乗りでも気にならない程度だ。
チェーン車から乗り換え、シャフト駆動が初めてだった僕でも、違和感なく走れた。これは気にすることはないと思う。
むしろ、アクセルを開けるとリヤが踏ん張って路面を後ろに蹴りだす感覚が楽しく感じられる。


2 発進。

V7のクラッチは乾式単板。乾式はクラッチユニットがエンジンオイルに浸かっていないため、発熱しやすく長い半クラッチはあまりよくないとされる。そのかわり、スパッと切れる、その節度が魅力だ。
乗り方としては半クラッチはなるべく短めに、できればあまり使わないでスパッと切り、スパッとつないだ方がよい。
むろん、それは半クラッチを全く使うなというわけではない。必要なところではしっかり使ってかまわないし、特に問題もない。(ただ、クラッチ板交換の間隔は変わるだろう)
発進時は、回転をそれほど上げなくても大丈夫だ。3000rpmもいらない。
ニュートラルでアイドリングした状態から、
クラッチを切ってギアをローに入れ、クラッチレバーを戻して半クラッチ状態になったら
同時にアクセルを開く。
車が押し出されて動き出したらクラッチを離して繋いでしまう。
アクセルが開いていればエンストすることなく、スパッとつながって加速できる。
繋ぐ前に回転を上げすぎると、半クラッチを長く取るか、アクセルを戻し気味に繋ぐかになってしまう。半クラッチが長いとクラッチ板の寿命を縮め、アクセルを戻し気味にするとエンストする可能性が高い。
ローギヤではさすがにナナハン、開けるとぐいっと上体を置き去りにして加速していくから、あまり回転を上げずに2ndへ。2000rpm以下にならなければ、ギクシャクしない。シフトアップは、タイミングを掴めばアクセルを瞬間緩めて荷重を抜くと同時にギヤを送り込む、「ノークラッチ・シフト」も簡単。これもワイドな5速ギヤではあるが、違和感なくできるし、シャフトであることも関係なくできる感じだった。誤解される向きもあるようだが、ノークラッチシフトは、失敗しなければ、クラッチを切るシフトアップと比べてもエンジンを痛めたりと言うことは全然ない。僕の場合は瞬間クラッチレバーを引いているが、クラッチが切れている時間が0.5秒以下、できればほんの瞬間くらいにした方が、変速ショックもなく、エンジンのトラクションも途切れず、走行も安定していいことづくめだ。



3 加速、減速、街中の走行。

V7は744cc。最高出力は50ps(6200rpm)。最大トルク60Nm/2800rpm。
決して脳みそがずれるような、暴力的な加速をするわけではない。
しかし、街中で走るには十分に速い。通常の開け方での出足は相当によく、ヒステリックに高回転まで回さなくとも、十分に周囲の車を置き去りにできる。また、40km/h、50km/h、60km/hくらいからの追い越し加速でも十分な速さを発揮する。
街中では安全のために左右に進路変更するだけでなく、減速して回避することもあれば、加速して回避することもある。
そんなとき、レスポンスが神経質でないのに開けるとしっかり速く、開けた分だけ正味それが前へ行こうとするV7の通常域の加速性能は、非常に役に立つ。
また、シングルディスクのブレーキは、絶対的な制動力はそれはダブルに比べれば低いだろうし、純正のブレンボのシステムは握り込むのに比例して効力を発揮するタイプだから、軽い操作で自在に減速力をコントロール…というわけにはいかない。しかし、こちらも、安定して信頼できるブレーキ能力だから、安心して街中でも握り込める。結果としての減速能力は、特筆するほどの鋭さはないが、十分に速度を殺せるブレーキだ。しかも、殺速の状態が実感としてわかりやすく、その分信頼して掛けられるので、より安全に強くブレーキングできると言える。
掛け始めのの瞬間、フロントフォークが縮むのを感じてからギュゥゥと握り込む、いわゆる2段掛けは必要だが、それを省いてもかなり安定した姿勢を保つのはフロントタイヤの径が大きく、重心も最新のバイク達より後方にあるからだろうか。


4 シフトダウン。

前方の信号が赤なのを見つけ、ゆるやかに減速して行って停止するとき、なんとなくだらだらと減速していってシフトダウンするよりも、少しメリハリを利かせて減速~シフトダウン、減速~シフトダウン…というリズムを作った方がシフトダウンはスムーズに行く。
ギヤが6速のマシンに比べてワイドなので、シフトダウン時には瞬間空ぶかしをしてエンジン回転数を合わせたほうがいい。
アクセルを閉じたまま、クラッチを切ってシフトダウンし、半クラッチで回転数の差を解消して繋ぐ、という手もあるが、乾式単盤のV7では、それを使うと微妙に滑らせるよりもつながってしまい、エンジンにやや負担を掛けている感覚になる。後輪のグリップも安定しない。
それよりは、ブレーキングから回転が落ちてきたら瞬間クラッチを切り、同時に右手をピクッとひねってシフトペダルを左足でしっかり送り込み、そしてすぐにクラッチを繋ぐ、この方法の方が車体も安定しブレーキングも途切れない。そして決まると気持ちいい。
シフトダウンの時も、タイミングを丁寧に合わせればノークラッチシフトは可能。アクセルをピクッと開けた瞬間に左足で送り込むと、抵抗なくすっとギヤが入る。これも誤解があるようだが、タイミングが合っていればエンジンを痛めることは少しもない。僕はここでも瞬間的にクラッチを切るようにしている。その方が若干ずぼらにできるからと、タイミングがずれても大丈夫なように、保険の意味だ。



5 交差点の左折。

横断歩道を渡る歩行者や自転車の有無を確認しながら街中の交差点をくるっと左折する。
単純な動作だが、奥が深い場面だ。
まず、即時急停車できる状態であることが前提で、あまり速度を出さず、くるっと小回りして回ったらすぐに立ち上がって加速してくという、ちょっとだけジムカーナ的な要素のあるシーンだ。
V7の左折は非常に簡単だ。
車体が勝手に倒れる方向に加速度をつけてぐらっと倒れ込んでくることもないし、
ハンドルが切れずに予想よりも大回りしてしまうことも滅多にない。
V7の場合、サスペンションでいじれるのはリヤのプリロードだけだが、このプリロードを上げる(=かける)とハンドルがクイックになり、抜くと遅くなる。
交差点で言えば、プリロードを抜くと、ハンドルが重く感じ、倒さないとハンドルが切れて来ないので、バンク角は大きめになる。
プリロードを掛けると、少ないバンク角で舵角が入って回るようになる。
僕の感覚では、納車時のプリロード、17mmは安定してわかりやすく、車体の傾きでコントロールする感じ。
試した23mmと22mmでは、より自然な感じでハンドルに舵角が入り、小回りが自然にできる感じ。
どちらも、押し舵や引き舵などの補正入力をしなくても曲がれた。
しないが、両手放しでも問題なく曲がれる感じだ。

これが10mmまでプリロードを下げると、フロントを頑固に感じ、バンクは深くなるしで、やや緊張を迫られる。
25mmまで上げると、ちょっとクイックすぎる感じがした。

前の愛車、GPZ1100は装備で270kg以上の重量車でしかも重心が高く、ぐらって倒れ込んでくる恐怖があった。そのため、交差点の左折はいつも少し緊張して、チャレンジしている感じだった。これをうまく、白バイのようにくるりと決めてみせるのが快感でもあったのだが、神経が疲れるのはまちがいない。
比べてV7は非常にやりやすい。左折時にもラインを選べるし、立ち上がり方もアクセルを開けるタイミングを自由にとれるので、早めにしたり、回り込んでから開けたりと、その時々で違う曲がり方を楽しめる。
これは、交差点内に人がいたり、車がいたり、前方の状況が変わったりしたときなどに安全に楽に対応できるわけで、この一点だけでもV7の街中の走りやすさは逸品と言える。




6 車線変更

最近、むしろ僕はいかに車線変更しないで快適に走るか、または車線変更していないかのように走るかの方に興味があるので、あまり激しい車線変更はしない。
車線変更時には直進から右か左に傾けて斜めに走り、また反対に傾けて直進に戻す、という2アクションが必要だが、基本的には最初の斜めになるワンアクションだけをメリハリをつけて後方の車に見せたら、あとはスムーズにいく方がいい。
基本的に車線変更は加速しながら行う。減速しながら行わなければならない場合もあるが、混合交通のことを考えると、減速しながらの車線変更は後方との車間距離がかなりある時以外は遠慮すべきだ。
V7のリーンは走行時でもとても軽い。クランク縦置きのVツインというのと、スリムで軽量な車体が効いているのだと思う。
傾ければ自然に舵角も入って車線変更してくれるが、ただ「えい」と傾けるだけだと、直進したまままず傾いて、それから一呼吸置いてぐいーんと方向を変えるみたいな動きになる。
街中は結構デリケートなので、ウィンカーを点け、車線変更することを周囲(特に後ろ)に認知させたら、スパッと加速して後方から離れつつ車線変更したい。それが一番後方にストレスを与えない車線変更だ。
そのためには、「傾けた…方向転換した」という、どっこいしょリズムでなく、傾きはじめると同時に向きが変わり始める、スパッという切れ味のいいステップを踏みたい。
そのために、倒し方を少し工夫する。

V7はハンドルの逆操舵を加えると、面白いように簡単に寝る。しかし、それはさっきのどっこいしょリズムに近い。
右に車線変更する場合で考えよう。
直進状態から尻の右側に体重を掛け、同時にそのまま右にもたれかかるように、体の力を抜いて落ちていくようにする。自分の重心がシートの右角の上を通過するかどうかのあたりで、自然に乗っていればバイクも右に傾きはじめる。その傾いてタイヤの接地面が傾いてごろりと動き出すのを感じると同時にアクセルを開けてやるのだ。
V7は微かに斜めになったまま、リヤタイヤを外側に蹴って、きれいにターンを始める。
V7がターンして落ちていく自分の体重を回り込んで支えてくれるのを感じたら、右にもたれかかるのをやめて加速Gを素直に全身で受けるようにすると、自然に車体の中心に体の重心が来て、ターンが終わり、アクセルを開けたことで車体は起きようとするからそれに身を任せてそのまま車体が直立するに任せる。
加速しながらだから後方の車は遠ざかっている。
直立したらまっすぐ進んで、右車線に入ったら加速は終わりだ。
そのままながらかにアクセルを戻して速度を落としながら、やや右に斜めに走っている状態をまた道路を直進する状態に戻していく。これは意識しなくても、目で前を追っていれば自然とおわる。

文章に書くとめんどくさいが、実際にはV7は軽くてスリムな車体と、実用トルクのたっぷりした低・中速のエンジンパワーで、軽やかで鋭い動きを見せ、車線変更は小気味よくスパッと決まる。
大きなナタを振るうといういより、よく切れるナイフで小枝を切るようだ。





7 被視認性

総じて、V7は市街地で小気味よく、鋭い動きが可能で、それも高回転までエンジンを引っ張りまわさない、ヒステリックにならない範囲で可能なので、ストレスなく、速く市街地を走ることができると言えるだろう。それはつまり、安全にもつながることだ。
一つ気を付けた方がいいことと言えば、その動きのわりにV7はサイズが小さく外見もレトロで、速そうに見えないということだろう。被視認性を上げておく必要があるかもしれない。
そのためには、ウェアやヘルメットなどに被視認性の高いものを用いる方がいいかもしれない。
通勤などの市街地専門で考えるなら、ウェアは蛍光の黄色のようなものでもいいかもしれない。
速い癖に小さいV7はドライバー達の目に入っても、どうせ遅いバイクだろう…としか思われない可能性がある。被視認性を上げ、堂々と車線の中央を走り、存在をアピールする。
それがV7で市街地を走る時の最大のポイントかもしれない。

2 件のコメント:

  1. 樹生さん こんばんは。ブログ拝見しています。

    GPZからV7へ乗換えられて、走行も3000キロを越えられたようですね。
    今回もV7に関しての記述を読ませて貰いました。
    よくここまで分析できるものだなーと感心します。やはり樹生さんらしい。
    私が書くすると、おおざっぱになるので、あまり参考にならないなーて思いました。

    小気味よく走るバイクは結構好きですが、排気量や重量が大きいバイクで、このような
    動きをするものは、少ないですね。単気筒のバイクでは在るのですが、スピードが
    上がると、振動が大きく回転を上げられません。
    4気筒のバイクでは、爆発力を感じられないので、小気味よくとは反対の世界です。
    これは自分の感覚ですが、路面を蹴っていく感じが小気味よくかな~と。
    まさしく、V7はこれですよね。
    昔、取材で片山敬済がトラクションの話をしていましたが、アクセルワークでの
    後輪の駆動力を自在に操れるのが良いマシンだと言っていたのを思います。

    トルクが下からどっと出るV7は簡単に安全な回転域で、この感覚を
    得られると私は思っていますがどうでしょうか?軽さも一役かってますね。

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    1. いちさん、こんばんは。
      片山敬済氏が言っていたのは、『ライダ―スクラブ』103号でのdb1で走っての根本健氏との会話の中でだったと記憶しています。
      V7の最大トルクは60Nmこれを2800rpmで発生しますが、750ccとはいえ、排気量のもっとでかいハーレーのようなトルクの塊感とはまた違うようです。また、3000rpmも回っていれば、GPZ1100の方がトルクは出ていたように思います。
      違いは、軽さとのバランス。
      おっしゃる通り、安全な領域で「アクセルワークでの後輪の駆動力を自在に操れる」感覚があり、それがとても楽しい感じです。
      ただ、開け方向だけでなく、開けている状態から閉め方向でもそれが全域でリニアに感じられるか、その時のハンドリングはどうか、など、いろんな状況でどうかは、まだまだ試せないままにシーズンオフになってしまいました。
      秋までの走りの記憶の中では、開け方向でも、閉め方向でも、リニアでいい感じだったような気がするのですが、それはまた、来シーズン確認していきたいと思います。
      シャフトのバイクは、例えば同じツインでもドカティに比べてそこまで自在というイメージではないのですが、実のところ、どの辺まで行けるのか(その前に乗り手の私が全然行けてないのが問題なのですが…^^;)、春が楽しみです。

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